最後の相場師 津本 陽(著)史上最大にして最後の相場師、是川銀蔵氏をモデルにした男の生き方を描く

角川文庫 460円 1988年1月10日(昭和63年)初版発行

昭和51年秋、79歳の佐久間平蔵は散歩の途中でふとつぶやいた。「いよいよ、儂のこの世で仕残した勝負を始めるか」-これが、オイルショック後の低迷市況の中で世間を驚かせた大仕手戦のしずかな発端だった。
16歳で大陸に渡り、その後波乱の人生を送った平蔵が、老鏡に入って展開する死闘にも似た株式投資のかけひき・・・史上最大にして最後の相場師、是川銀蔵氏をモデルに、手に汗にぎる迫力で男の生き方を描き切る傑作長編!

目次
第一章 静かな発端
第二章 老いの熱情
第三章 孤独な進撃
第四章 ひろがる雲間
第五章 昇龍
第六章 激流のなか
第七章 破綻の道
第八章 捲土重来
第九章 頂上へ
第十章 死闘
第十一章 勝利
第十ニ章 花の山

H31年4月22日(2019年)
実に懐かしい思いで完読した。この本が出版された当時、私は証券会社で勤務し株式投資の営業をしている頃であった。しかし、この本を購入し読んだのは初版からだいぶたった頃ではなかっただろうか。当時、短期売買を望む顧客に仕手銘柄として勧めた記憶も少なからず残っている。しかし、結果として顧客に損をさせた苦い経験もある。ただ、何となく読んだ本を、今回改めて読み返してみると株の怖さとメンタルと、充分に参考になった。
当時、仕手の筋として「是川銀蔵」の名は知名度があり、市場を賑わせていた。老人というイメージがあるも、これだけの資金力を持つ裏を推し測って恐々としたものである。そして株はギャンブルだという意識を持ったのも事実であった。(この時期に「誠備グループ」での仕手もあった。)
文中にもあるように、中期・長期投資において、その会社の分析の裏付けと確個たる信念は成功する意味で絶対要件なのだろう。しかし、これが今の情報過多の乱立する市場にあって、AIが主導する場面に個人がどのように戦うべきなのかを考えさせらる。

文中の
”相場師は、おそらく世の中でもっとも危険度の高い職業で、日本の株式市場で五・六年以上命脈を保った相場師はいない。ながく証券界に生き残っている相場師は、すべてが自分で証券会社を経営する専門家であった。投機家としての立場で、終わりをまっとうした者はいない”
まさに歴史がそれを語り、証券会社の創業者におさまる場合が、ほとんどであった。証券会社の自己売買に証拠金がかからず、売買手数料も破格に安く、このことだけでも個人には不利であった。

”相場の玄人は、目先の事象に一喜一憂してはならない。
江戸期の米相場師、本間宗久は「たくさんの風聞、人気もそろい弱く、なにほど下がるも知れ難く、わが考えも弱かるべしと思う節、心を転じ買い入れるべきなり。・・・」”と

”ゴールデンクロスとは、株価の先行きが強いことを暗示する、罫線のかたちであり、株価の週間棒の線が十三週線、ニ十六週線を抜くことをいう。・・十三週線とニ十六週線は、それぞれ信用取引の三カ月、六カ月めの決済の日取りに合わせている。・・”
30年たった今でもこの分析はテクニカルとして廃れていない。

”投資家のすべては、他人とおなじように動きたがっている。たとえ、ある株式が将来有望かもしれないと、推測しても、他人が買いつかなければ、自分だけで総力をあげて買いむかってゆく、勇気が湧いてこないのである。”

”株式相場で儲ける秘訣!それは、資産内容がよく、今後業績があがる可能性があって、やがて株価の見直されることがまちがいないと思える銘柄を、安値のうちに拾う。それだけのことが株式投資ではむずかしい。いざ身銭を切って株式を買おうという段になったら、心細うなって、他人の意見をききとうなる。ところが他人の意見を聞いて買うた株いうのは、ふしぎに儲からん”

”「売買をせかずいそがず待つは仁、とくの乗るまで待つは仁なり」:相場というのは、急いでおこなうものではない。思惑の方策が成りたっても、今日でなければ売買の機会はないなどと焦るのは、失敗を招く原因である。幾月も実行を待ち、情勢をくりかえし判断したのち、確実な機会をとらえて勝負に出るべきである”

ここには学ぶべきものがたくさんある。

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