流浪の月(本屋大賞受賞) 凪良ゆう(著) 新しい人間関係への旅立ちを描いた異色の小説
東京創元社 1500円 2019年8月30日初版発行
せっかくの善意を、わたしは捨てていく。そんなものでは、わたしはかけらも救われない。
あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい。再開すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みまがら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。
目次
一章 少女のはなし
二章 彼女のはなしⅠ
三章 彼女のはなしⅡ
四章 彼のはなしⅠ
五章 彼女のはなしⅢ
終章 彼のはなしⅡ
感想
2020年5月11日(令和2年)
実に変わった小説であった。この本は2020年4月、本屋大賞受賞作品である。
確かに前評判通り奇想天外、ドデンが有るわけではないが、読み終えて不思議な感慨が残る一冊であった。視点も従来ならタブー視されるのだろうが、それが反って新しい境地にさせてくれる。印象深い言葉に”デジタルタトゥ”という斬新な単語があった。今の時代に適合した言葉である。SNSで様々な事件が拡散される。そして伝言ゲームのように内容が湾曲され、最後はフェイクに変化する。
物語は淡々と流れていくが、少女の心の葛藤・叫び・願いが織りなす展開は実に引き込まれ、あっという間に読みを終えてしまった。しかし何というのか不思議な余韻を残す一冊となった。
著者の作品は今回初めてであり、今しばらくは他の作品も読んでみたい。
追:以前から本屋大賞を受賞した作品でもあり、是非読んでみたいと思っていたものの、先日の朝の番組でこの本が紹介された。その時、読んだ感想を司会者が最後は〇〇でと・・・一言ネタバレを発す。これで一時読むのを辞めようとさえ思案。読者は1500円も払って買うのである。この配慮のなさに辟易する。