父親 妻子ある青年実業家との不倫する娘とそれを見守る父親との切々な心情を描く

遠藤周作(著) 講談社文庫 560円 初版発行1989年4月15日
内容
不倫の恋におちた娘と、娘の恋愛により深く傷つく”父親”という孤独で哀れな存在を切々と描きつくす恋愛大作。
スタイリストの仕事に打込む純子は、妻子ある青年実業家の強引な情熱に動かされ、道ならぬ恋におちた。新製品開発競争で苦境に立つ化粧品会社重役の父・菊次の複雑な思いを絡めて描く傑作長編。
目次
清滝
すべての始まり
追憶
その時サッチャー首相は
再開
道ならぬ
発覚
別の発覚
亡霊
五十六歳の抵抗
リヤ王
意地
選択
辞職
旅への誘い
父と娘
旅の終わり
解説
感想
初版が1989年とあり、今から33年前の作品となる。昭和64年である。
今から考えると、このスタイリストなる職業は当時としては斬新な部類で実に先鋭的であったのだろう。今日では当たり前のようにスタイリストは存在するが、この時代の洋風文化がまだ熟していない日本において、ごく一部の人だけの存在だったのか。そんな職業を本作品に取り入れる先見の明は流石と思われる。
30年振りに読み返していくうちに、少しづつではあるが当時の記憶がよみがえる。原宿・表参道・竹の子族と・・。まだ携帯もなく公衆電話の時代で、待ち合わせなど駅の伝言板があった時代である。
本作品出てくる父親も典型的な戦中派で、その時代の狭間でかたくなに自分を見失わないようにあがなう。
時代が移り世の中が変わった今でも、父親というものはそう簡単には変われないと思う。娘を思う気持ち、子供を思う気持ちは今も昔も不変であろう気がする。
他方、子供の側からすれば時代に敏感で、その狭間はますます親とはかけ離れて行く。
しかし傷ついた心を癒すすべはどんなに時代が変わっても同じであろう。
初版本を読んだので慣れるまで少々戸惑いがあった。1行43文字、18行の小さな文字なのである。1冊の本にぎっしりと文字が詰まっているといった感じで、久しぶりに文学青年に戻った気にもなった。
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